Tカードの捜査機関への情報提供に関する調査メモ
2019年1月21日、Tカード情報が捜査機関に提供されていた趣旨のニュースが話題となりました。捜査関係事項照会書という一部聞きなれないワードもあり、自分の中で色々と調べてみた際のメモとなります。
事案概要
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)では、2012年以降、当局の要請に基づき、捜査機関の「捜査関係事項照会書」があれば、Tカードに関連する個人情報を提供するように方針を転換していました。ただし、このような個人情報の提供について、会員規約には明記をしていませんでした。
このため、2019年1月21日、個人情報保護方針を一部改定した上、「規定に明記する」といった趣旨のプレスリリースを発表しました。
何が問題か
騒動になった原因としては、個人情報保護の観点において、利用規約と実態にギャップがあった(規約違反)点となります。ただし、捜査機関からの要請といった少し特殊な事情はあると言えます。
Tカードの概要
Tカード(及びTポイント)は、CCCが展開するポイントサービスです。ユーザ数としては、以下の通り、6788万人とかなりのユーザを抱えていることがわかります。
2018年9月末の時点で、「アクティブ」(=直近1年間にTポイントをご利用していただいている)、かつ「ユニーク」(=Tカードを複数枚お持ちの方を1人として数える)な年T会員数(年間利用・Tカード保有・名寄せ)は6,788万人になりました。*1
捜査関係事項照会書とは
警察からの任意に基づく、捜査への協力依頼となります。任意であるため、強制力を持っていませんが、依頼内容を確認の上、可能な範囲で強力に応じるのが一般的なようです。
その他組織の対応方針
対応事例や規定を提示している組織や事例がないか調べたところ、いくつか情報がありましたので、記載します。いずれの情報においても、無条件で情報を提示することはなく、内容をよく吟味した上での協力というのが基本スタンスのようです。
LINE社
LINE社は捜査機関への対応方針をHP上に公開しています。*2以下はそこからの抜粋ですが、無条件に応じるのではなく、必要性を協議の上対応していることがわかります。
捜査機関から情報開示の要請を受領した場合、関係法令に基づいて開示することが適切と判断される状況と範囲に限り、当社では捜査に必要な情報を提供する場合があります。
当社は、捜査機関等からの要請を受領後、社内のプライバシー保護組織(法律、セキュリティ、政策)において内容を徹底的に審議し、適法性、ユーザー保護の観点等からの適切性の検証を行います。本検証において、法的な不備がある場合はその時点で請求を拒否します。捜査目的に対して請求範囲が広すぎる場合などは捜査機関に対し、説明を求め、説明が妥当ではない場合はその請求に対応することはありません。
日本図書館協会
日本図書館協会でも、図書館としてどのようなスタンスで対応すべきかを明記しています。*3こちらも、前述のLINE社と変わらず、内容を整理し、必要なデータを限定することが大切であると記載されています。
図書館としては、守秘義務があること、法的手続きを経ずにデータを公開することはできないこと、また法的手続きを経た場合でも必ずしもデータの公開が約束できないことを説明します。そのうえで、何のために、どのデータを必要としているのかを限定する方向で要求を整理していきましょう。こうした調整を通じて状況を把握して整理し、図書館の立場・考え方の基本を落ち着いて提示していくことが大事です。
医療機関から法律事務所への相談例
医療機関においても、このような問い合わせは多いと推測されます。下記は弁護士によるQ&Aサイトですが、スタンスはこれまでと同様です。*4
「捜査関係事項照会書」は、刑事訴訟法197条2項に基づく照会ですが、任意捜査です から、病院には照会に応ずる法的義務まではありません。しかし、患者の病名や通院 期間のように、カルテを見れば容易に回答できる事実の照会には、回答するのが一般 的です。